町山智浩のVIDEO SHOP UFO 『泳ぐ人』"The Swimmer" (1968) を観た



CSのザ・シネマで、「町山智浩のVIDEO SHOP UFO」という特集があったので日本で録画していたものを香港へ持ち帰った。ラインナップがよくて、未見の映画ばかりなので、ゆっくりと楽しんで観ていこうと思ってる。

町山智浩のVIDEO SHOP UFO :ザ・シネマHP

今回観たのはバート・ランカスター主演の『泳ぐ人』”The Swimmer” (1968) 。アメリカン・ニューシネマの代表作と言われるが、それほど知名度の高い作品ではない。現在ではカルト作品として再評価されているというが、いったいどんな映画なのだろう?


【あらすじ】
ニューヨーク郊外の高級住宅街。人々はプール付きの家で優雅に過ごしている。一人の中年男ネッド(バート・ランカスター)が水着姿のままプールに飛び込む。ネッドは、そこの住人と気軽に話し、ここから自分の家までは、プールが8箇所あるから、そこを泳ぎながら帰ると告げる。他人の家のプールに勝手に入っても叱られないのは、ネッドの家が丘の上にあることをみんなが知っているから。
最初のうちは、人々はネッドのことを歓迎するが、徐々にネッドが疎んじられているのがわかってくる。パーティをしている家では追い出され、市営プールでは、汚い足を洗えと言われる。そしてたどりついた自宅では・・・

【町山智浩さんの後解説も含めたレビュー】(ネタバレあり)

この映画は、登場人物のセリフ等を通して、主人公のネッドがどんな人間か、だんだんわかってくるという構成になっている。ネッドは、今は失業してるのはわかるのだが、どんな仕事をしていたのかは素人目にはわからない。
町山さんの解説によると、彼の仕事は、ずばり広告代理店の社員である。それは、2007年に始まったTVシリーズ『マッドメン』のスタッフたちが、「『泳ぐ人』をテレビドラマでやろうとした」と語っているので間違いないとのこと。

この『マッドメン』”Mad Men”は、60年代の広告代理店が、いかにおバカでひどいことをことをやらかしていたか、という様子を描いたドラマ。この題名は、マジソン街のMadとアホのMadをかけているようだ。
60年代の広告代理店の人間たちは、テレビの爆発的な普及で、莫大な利益を得てやりたい放題だったらしい。つまり、弁護士、金融マンなどと並び貴族化していたのだ。

映画前半は、エスタブリッシュメントだった頃のネッドを知っている人々から、悪い扱いは受けない。かつてのベビーシッターの女性(ジャネット・ランガード)からは、好きだった、と告白される。男としても自信満々だった時代を思い出し、思わず馬と走って競争するネッド(笑)

いじめられっ子の泳げない男の子と、水のないプールで会うシーンでは、夢はかなうものと諭す。かつての自分がそうだったように。(←これは子供時代の自分と話しているのだと)
昔の愛人からは、ひどい扱いを受けたことをなじられ、市営プールでは、自分はお金も何もないみじめなただの男だと自覚させれらる。

豪邸の主人が、プールの水は99%フィルターにかけられていると話すのは、ここには金持ちしかいないという比喩。ネッドが昔なじみの黒人ドライバーだと思って話すと、人違いだといわれるのは、黒人を見分けることができない(差別してる)ということ。
このようにこの映画の中の、ほとんどのセリフと場面は、心理的な意味がある。原作者のジョン・チーバーは、「この主人公はナルシスだ。だから水に入るのだ」と話しているという(ナルキッソスは、水面に映った自分に惚れて、水に落ちる)。

同時期のアメリカン・ニューシネマの名作『卒業』はロスアンゼルス版の『泳ぐ人』とは知らなかった。
日本でいうと、ホイチョイ・プロダクションの「気まぐれコンセプト」は『泳ぐ人』だと町山さんが話してたのは大笑いした。

この映画は、中年になっても俺はイケてて、ブイブイいわせてると(自分で思ってる)バカな男たちに観てもらいたい。貴族化した人種の傲慢さとその末路。アメリカの腐敗ぶりを風刺したものだが、先進国に住む男たちは誰が観てもその意味がわかるだろう。だから、今になってカルト作品として再評価されたのだ。(だけど本当のバカは、この映画の云わんとする意味さえわからんだろうが・笑)

バート・ランカスターが水着姿で、吹きすさぶ冷たい風の中、家族がいなくなった廃屋の、開かないドアをノックしつづけるラストシーンは、奢り高ぶった生活をしていると全てを失うぞ、という我々への警鐘だったのだ。(自戒も込めて)噛みしめるほど味わい深い映画であった。

町山さんの映画の前と後の解説を聞きながら、ぼくは少年時代に見ていたテレビの洋画劇場を思い出し懐かしく思った。CSは民放のように時間の制約がない分、十分な解説が聞けて楽しい。考えてみると、ぼくは淀川長治先生や、荻昌弘先生の解説で映画を勉強してたんだな、と改めて思わされたのだった。

この町山さんの解説を読んでから観ても充分面白く、考えさせられる映画と思います。

The Swimmer (1968)
Directed by Frank Perry

16-May-18 by nobuyasu


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